はじめに:障がい児を育てるという日常の中で
「私は健常児を産めない体なのだろうか──」
これは、長男が18トリソミーと診断され、次の妊娠で「またトリソミーの可能性がある」と告げられたときに、母・奈永子さんの胸をよぎった言葉です。
妊娠中にスクリーニング検査で異常の可能性を告げられたとき、奈永子さんは電話越しにその事実を淡々と夫に伝えました。
声が震えないように──自分の心が壊れてしまわないように。
そのとき、父・真輔さんはこう感じたといいます。
「事態を呑み込めなかった、本当に無だった。子どもの病気よりも、妻のメンタルが心配だった。何よりも早く家に帰って話を聞かないと、と思った」
長男・隼輔くんと歩んだ6年
医師から「長くは生きられないかもしれない」と言われた長男・隼輔くん。
それでも、6年経った今、彼は家族とともに明るく学校生活を送っています。
決して“特別な”生活ではありません。
むしろ、家族みんなで“普通の毎日”を少しずつ作り上げてきました。
奈永子さんは言います。
「障がい児の家族がいても、いなくても、ちゃんと仕事もできて、日常生活も送れる。
息子も学校を楽しめて、家族として普通の暮らしができることを、これからも続けていきたいです」
父として「違い」を楽しむ視点
父・真輔さんの子育ても、とてもユニークです。
現在、隼輔くんが通う発達支援施設は月1回の定例会議でお休みになります。
その日は、真輔さんが職場に隼輔くんを連れていき、自分で面倒を見ているそうです。
「最初の子育てが障がいのある隼輔だったので、それが普通だったんです。
“特別”とも“困難”とも思わなかったですね」
と語る真輔さん。
次に健常児が生まれたとき、改めてこう思ったといいます。
「全然違う育て方をさせてもらって、むしろ面白いなって感じたんです」
比べるのではなく、“ちがい”を受け入れて、楽しむ。
それがこの家族の、深くてしなやかな強さでした。
「普通の生活」を伝えたい
世の中では「障がい児を育てること=特別な苦労」と受け取られがちです。
もちろん、医療的ケアや行政手続きの煩雑さ、将来への不安がないわけではありません。
けれど、奈永子さんたちは“特別なこと”としてではなく、日常の一部としてそれを受け入れ、続けています。
「普通に暮らせてるよ」という姿そのものが、誰かの励ましになる。
だからこそ彼女は、メディアにも、SNSにも、自分たちの暮らしを発信しているのです。