日本では、人口の約10%にあたる964万人が、何らかの障がいと共に暮らしているとされています(2022年 内閣府)。障がいは決して「特別なこと」ではなく、誰もが人生のどこかで関わる可能性がある――そんな共生社会の今を生きる、ある親子の姿があります。
妊娠中の「ただの風邪」——実は重大な感染症だった
有持貴子さんの娘・虹色(そら)さんは、先天性サイトメガロウィルス感染症(cCMV)というウイルス感染が原因で、脳に大きなダメージを受けました。
「妊娠中の風邪のような症状、それがまさか胎児に影響を与えるとは思ってもいませんでした」と語る貴子さん。サイトメガロウィルスは多くの人が保有しており、通常は問題を起こしませんが、ごくわずかな確率で胎盤を通して胎児に感染することがあります。
そらさんの場合、脳が形成される初期段階でウイルスが入り込んだことで「脳の異形成」が起き、重度の知的・身体障がいが残りました。
すべてが「奇跡」に見える日々
「最初は心がズタズタで、誰にも会いたくなかった」と話す貴子さん。しかし今では、虹色ちゃんの存在が「人として、母として、自分を無敵にしてくれた」と感じているそうです。
呼吸ができる。手が動く。にっこり笑ってくれる。それだけで「今日も奇跡だ」と思える。重度のてんかんや肺炎を何度も乗り越えてきたそらさんの毎日は、そのひとつひとつが尊い営みです。
家族とつながる支えの力
貴子さんには、虹色ちゃんを見守ってくれる家族の存在も大きな力になっています。長女は率先して妹を助け、祖母からは“テレパシー”のようなタイミングでLINEが届くこともあるそうです。
「人の目を気にしても、無駄なことは気にしない」。そんな心境になれた今、外出先でじろじろ見られても、自然体で笑っていられるようになったと話します。
発作とともに暮らすための工夫
てんかん発作を見逃さないため、貴子さんは日々の様子を記録として動画で残し、必要に応じて医師に見せています。発作が5分を超える場合はすぐに救急車を呼ぶ。そうした日常の中で、そらさんの命を守り続けているのです。
障がいは「誰かだけのもの」ではない
これから高齢化や小児医療の進展により、障がいとともに生きる人の数はさらに増えると予想されています。障がいとは、決して「他人事」ではありません。自分や家族も、ある日ふと、その立場になるかもしれないのです。
虹色ちゃんと貴子さんの歩む毎日から、私たちは「共に生きる」ことの意味を改めて考えさせられます。