髪を染めている時、私は祖母の後頭部に不自然な凹みを見つけた。
それはただのへこみではなく、角ばっていて、まるで角材で殴られたような形状の凹みだった。
「これ、どうしたの?」と尋ねると、祖母は一瞬だけ目を伏せて、
「預けられていたあの6年間の時にできたのよ」とだけ答えた。
それ以上は語ろうとしなかった。
【祖母が預けられた6年間とその謎】
祖母は昭和5年生まれ、5人兄弟の長女だった。
しかし、その中でただ一人、幼い頃に親戚に預けられ、6年間を家族と離れて過ごした。
母親は一人で5人の子どもを育てる苦労があり、父親は韓国や中国へ仕事に行っていたためだ。
しかし、預けられていた間に起きたことは、祖母自身も語らなかった。
後頭部の角ばった凹みは、その時代の“何か”を物語っているように感じられた。
【角張った凹みが語るもの】
一般的な怪我や打撲とは違い、この凹みは形がはっきりと角ばっていて不自然だ。
それは、事故なのか、それとも意図的な何かの結果なのか――。
祖母は語らなかったが、凹みは無言のまま、
過去の痛みや記憶の一部として今もそこに存在している。
【語られなかった記憶の重み】
なぜ祖母はそれ以上話さなかったのか。
私には怖くて、深く聞けなかった。
でも、祖母の沈黙の向こうに、
長女として預けられた6年間の孤独や痛み、そして言葉にできない感情があるのだと思う。
【結び】
「角張った凹み」は単なる身体の傷跡ではない。
それは、昭和の厳しい時代背景と家族の事情の中で、語られなかった真実の象徴だ。
祖母の記憶は、完全に解けない謎として私の胸に刻まれた。
そして、この小さな凹みを通して、家族や過去の痛みを静かに見つめることができるのだ。